prime52729masaのブログ

建築や街の身近な話題を取り上げたいと思っています。

神戸市東灘区住吉 旧乾邸の見学

神戸市東灘区住吉にある、全国的に有名な「旧乾邸」の公開が有りましたので11/05の日曜に予約を事前にとって出かけて来ました。その報告と写真をアップロードします。当日は正に小春日和とも言いうる快晴の天気でした。お昼の1時からということでしたが、出かけると12時45分頃にはすでに正門の前には20人程の熱心な見学者が三々五々集まってきていました。

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外で待っていても、まずは外廻りの塀の見事さに目を見張る思いがします。写真にある通りタイルを何層にも積み上げた、とても重厚で落着きのあるデザインで、前面の道路の北上がりの勾配に合わせて下端がせりあがっていて、それもあって変化のある景観を形成しています。この前に来る度、いつも思わず見とれてしまうほどの風格があって、個人的には大好きな趣のある佇まいです。
 
ようやく時間が来て市の役員に招じ入れられました。30人程度の人が集まっていました。まず向えてくれるのが、とても有名な玄関の柱廊空間(ポルティコ)です。今回は改修してから初めてでしたので、まず確かめてみたいと思っていたのが屋根にあけられた明り取りの状態です。
私が以前出入りしていたころは円形に穿たれた明り取りの上に防水シートが密着して設けられていて、とても無残な状態だったのですが、果たして建設当初の姿に戻っているかどうか気掛かりでした。戻っていた場合どの程度の効果があるのか確かめたいとも思っていました。さっそく実地に確かめたところ見事に空の青が天井に穿たれていました。ひとまず胸をなでおろしました。

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改めて玄関廻りを眺めると、その見事さに感銘を受けます。屋敷にアプローチするとまず柱廊空間(ポルティコ)が出迎えてくれます。その天井を見上げると、濃い色の竹をあしらった矢作形のタイル張の何ともおしゃれなデザインとなっています。その中に写真の通り、三カ所ほど先述の明り取りの穴が穿たれています。
 
ポルティコの屋敷側の壁には装飾金物が面格子として掛かっています。天井から吊るされた照明もこの空間に合った意匠で、全体の雰囲気を盛り立てています。さていよいよ玄関ホールに入ると壁面は全て薄緑の光沢のあるタイルで覆われています。正面には壁龕が掘り込まれていて、トルコかアラブ風の額入の装飾タイルのが出迎えてくれます。更に玄関ホールの開口は2面共に繊細なデザインの真鍮製建具がはまっています。この空間の雰囲気は何度見ても見事なもので、これだけでも見る価値があると思います。設計者である渡辺節の力量を十二分に堪能さてくれるます。
 
さていよいよ中に入って階段室・エントランスホールへと足を踏み入れると、チークの鏡板で覆われた空間で、これも彫刻を施した木製の階段が圧倒的な存在感を放っています。2階の壁面には設計者が竣工祝いに贈ったと言われる厳島神社の景観を織り込んだ古びたタペストリーが掛けられています。

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まずは隣接するゲストルームへと歩を進めます。壁面は同じくチークの鏡板張で、東面中央にはこれも木の彫刻で飾られたマントル・ピースがどっしりと鎮座しています。南面の壁はほぼ全面が開口で上部には色ガラスが嵌め込まれています。さらに北面には書斎と言われている小部屋が有ります。
 
少し残念と思われるのは大開口の下の部分のサッシがアルミサッシに改修されていることですが、これは今回の改修前から既に改修がされていたようです。ゲストルームを語る上で外すことが出来ないのは北面に設けられた鉄製階段です。これも我々が出入りしていた頃にはかなり傷んでいて手摺の一部が脱落してはり金で固定されているような状態だったので、それが補修されているか気掛かりだったのですが、この部分も的確に直されていたので安堵しました。

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この屋敷でのハイライトは「玄関廻りとゲストホール」だと思うのですが、他にも幾つか注目すべき特長があります。まず昭和11年竣工という時期に建てられたにも関わらす、地下に設けられたボイラー室から全館暖房が完備されていたということで、それは設計者である渡辺節氏が当時最先端であったアメリカのビル建築の設備設計にも造詣が深かったことによるものだと言われています。
 
階段を昇って3階に上がるとサンルームというかサロンとも言うべき部屋があり、南の開口からは海への眺めが最高です。当時海運王であった乾家の由来を物語っているように思われます。

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他に庭園も公開されています。洋館側には洋風、蔵のある側には和風の庭園の設えが有ります。洋風庭園からは屋敷の全景が眺められます。外観としては意外にシンプルで、特に目立つものは無いと思われますが、目立つものとしては煙突と食堂のベイ・ウィンドウがあります。
 
いずれにしても、この屋敷は色々と経緯がありながらも今は神戸市の文化遺産として保存がされて、春と秋には市民に公開されているのは往時の神戸の歴史と雰囲気を伝えるもので、大変に喜ばしいことであり、これからも大切にしてほしいものだと、一神戸市民として願わずにはいられません。

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